「お風呂を様々な視点からとらえることで、日常の中に豊かさが生まれる」 個展『あわいを繋ぐ』を開催中の油彩作家安田悠さんが語るお風呂とアートの可能性
BAINCOUTUREは、「お風呂に感性を吹き込む」をコンセプトに掲げ、お風呂の時間や空間の可能性を拡張するための様々なプロジェクトに取り組んでいます。現在、東京ショールームでは、油彩作家の安田悠さんをお迎えして、お風呂など高湿度な場所でも鑑賞可能な耐水性のセラミックアートをふくむ、全17点の作品を鑑賞できる個展「あわいを繋ぐ」を開催中。(2022年11月18日 (金) ~2023年2月19日 (日))
今回のBAINCOUTURE Magazineでは、油彩作家として注目を集めている安田悠さんに、今回の展示会の見どころや、アーティストとしての制作スタイル、お風呂が持っている可能性などについてお話をうかがいました。
お風呂で鑑賞するアートとは
面白そうな企画に誘っていただき嬉しかったです。今まで色々な場所で作品を発表してきましたが、こんなにも生活に密接に寄り添った場での展示は初めてなので、作品をどのように見ていただけるのかが楽しみです。
ある特異な環境で作品発表をする際にどのようなことを意識していますか?今年のはじめに新宿のNEWoManという商業施設のショーウインドーで作品の展示をしたのですが、その際には、不特定多数の人が通る公共の場所であるということを意識して、どんな作品があったら、歩いている人が立ち止まって作品を見てくれるかということを考えていました。また、現在平行して展示を行っているもので、マンションの中に作品を展示するという企画があります。こちらは、共用部にバイオフィリティックデザインを導入したマンションで、緑がとても美しい空間になっています。そんな緑と呼応する作品はどんなものがいいかをイメージしたり、合わせて住人のみがその作品を購入できるシステムになっているので、このマンションに住んでいる方の目線も普段の作品制作より少なからず意識したと思います。



お風呂でアートを楽しむという取り組みに対しては、BAINCOUTUREのコンセプトである「使う空間から過ごす空間へ」「閉ざされた空間ではなく開かれた空間」「お風呂空間と住空間をシームレスに繋げる」という言葉を聞いて、確かにそうした視点で考えると、お風呂の中にアートを取り込むこと、生活の導線の中に新しい感性を取り込むことができるのではないかと思いました。
耐水性のセラミックアートについては、はじめはあまりイメージができなかったのですが、実際に出来上がったものを拝見すると、キャンバスの原画にはないセラミック特有の発色や素材感が非常に魅力的で、これまでとは違ったアート作品の楽しみ方ができるのではないかと思いました。
通常の絵画や立体物の作品を日常的に使う場であるお風呂に設置し続けることは難しいと思うのですが、こうした技術を活用してアートを鑑賞するための新しい媒体を生み出す取り組みには大きな可能性を感じました。

そうですね。実物を見た時にはこんなものがつくれるんだという素直な驚きがありました。
実は、実家に帰ると、父親が僕の作品をプリントしてラミネート加工したものをいくつかお風呂の中に貼り付けていて。一瞬それが頭によぎりました(笑)
そう考えると、お風呂の中で絵画作品を飾って眺めるという楽しみ方もありなのかなって。
実家のものは手づくりですが、今回はセラミックという技術によって、ちゃんとしたかたちになったので、あれが発展したらこうなるのかみたいな感慨深い思いがありました。

今回の個展は「Between」と「Attaining Shape」の2つのシリーズを中心に構成
今回、旧作と新作を織り交ぜた展示になりますが、 僕の作品の軸となっている「Between」「Attaining Shape 」の二つのシリーズで構成しています。
BAINCOUTUREのブランドの落ち着いた雰囲気とお風呂という場面をイメージしながら作品を選定したいったところ、結果的にどこか遠くへ来たような感覚(Between)と自分の内面の揺らぎに寄り添った感覚(Attaining Shape )の2つのシリーズにまとまりました。
新作は、ブランドとシチュエーションへのイメージからゆっくりと目の奥の方で残像のように漂い、留まる深さのある色合いの作品になっています。 タイトル「あわいを繋ぐ」のコンセプトにも込めた BAINCOUTUREという場だからこそ膨らむ新たなイメージの展開を
楽しんでいただけたらと思っています。先ほどお話したセラミックアートも、見た目だけでなく、構造にこだわったものをつくっているので、是非見て欲しいです。
※「Between」:境界線・地平線・水平線・海と空・大地と海・現実と非現実・具 象と抽象といった何かと何かを繋ぐ、またその間の時間を表現する意味合いで、 とりわけ風景を感じさせる作品のシリーズ
※「Attaining Shape 」:表現や形が獲得されていく・考えなどが具現化されてい く過程・それらが変化した後の状態を意味する造語でとりわけ抽象性が強い作品のシリーズ

そう思っていただけたなら良かったです。今回の展示内容を考える上で、BAINCOUTUREのブランドのサイトやinstagram、ショートムービーなどを拝見させていただいたのですが、僕自身、その世界の中にすっと入っていけるような感覚がありました。なので、今回の展示については、意識してブランドイメージに寄せなければならないという思いはなくて、共感、共鳴するままにかたちにしていくことができました。
「Between」は僕の中で抽象度をコントロールできるものと位置づけています。具体的に風景に寄せてもいいし、抽象的なイメージに寄せてもいい。そこもひとつのBetween=間になっています。今回は、一部具体的な風景が含まれた作品があって、「これは同じ「Between」のシリーズなのだろうか?」と思われる人もいるかもしれませんが、僕の中では、「Between」の中で、より風景に見える要素を増やした作品という位置づけになっています。
「Attaining Shape 」は色や筆跡を取っ掛かりとしてかたちづくっているのですが、僕は自分を抽象作家だとは思っていません。あくまで軸にあるのは風景です。なので、ベースはずっと「Between」にあって、そこから派生したものが「Attaining Shape 」になります。
「Between」は僕の中で、遠くから眺めているような距離感があるのですが、ある時もうちょっと自分に寄せて考えたいと思ったら、自ずと具体的な要素がどんどん排除されていって、抽象的なイメージが出てきました。
一つの作品だけに向き合わない、完成させるという意識を持たない、 思い描いたイメージの図像から都度離れようとする
日常の中の普遍的なものです。色々な物事が目まぐるしく変化して、多様化していくこの世界で、 気がつけばそこにあるような、特別ではない、自分の目から見え感じ取れる現実からインスピレーションを得ています。作品をつくるために何かを得るというよりは、日常の中で、目や記憶に留まる事象の蓄積がかたちになっていく感覚です。そんなぼんやりとしたイメージの残像のようなものを手がかりに創作をすることが多いので、本当の意味で動きだすのは描き出してからです。画面に何か一つでもアクションが起きればそこには描くべき必然性が生まれるので、その連鎖の中で自分なりの答えを探しています。

・一つの作品だけに向き合わないこと
・完成させるという意識を持たないこと
・思い描いたイメージの図像から都度離れようとすること(壊すこと)
これらは連動しています。完成させようという意識が働く、または明確なイメージを固めてしまうと、そこから可能性の幅を自ら制限してしまう強迫観念のようなものがあります。展示などの期日や属性によってはもちろんそこまでに完成はさせますし、ある種のパターン化された作品展開もある訳なので、あくまでも意識の問題として。僕は、”制作過程”から得られる意識の拡張・変化を優先することが、潜在的意識下のサインのようなものと結びつきを強くすると思っています。一つの作品だけに向き合わず、複数の作品を同時並行で進めているのも、それらをコントロールしまた適度な客観性を持つための手段です。そうして現れたものは、意識の少し外側でここに存在するもう一つの自分の形になるのではないかと思っています。
お風呂を様々な視点からとらえることで日常の中に豊かさが生まれる
僕自身は、元々お風呂に入っている間は他のことができないので時間がもったいないという意識があって、普段はシャワーで済ませることが多いのですが、、、(苦笑)
BAINCOUTUREの日常の習慣的なお風呂という場を様々な角度、視点から想像力をふくらませて考える取り組みには大きな可能性を感じました。「お風呂に感性を吹き込む」というコンセプトも素敵だと思います。身体を洗う、温めるという機能的な部分以外の視点でお風呂を捉えることで、日常の中に豊かさが生まれるというのは、どこかアートに通じるものを感じました。
そうですね。皆さんがお風呂に入る時、「身体を洗いたい」「温まりたい」以外の理由があるとしたらどんな感覚があるのか気になりました。お風呂にまつわる人の感覚や生活スタイルって普段中々聞く機会がないじゃないですか。
2022年は、BAINCOUTUREのショールームでの個展をふくめて、これまでメインとしていたギャラリー空間ではない場所での展示が続きました。所属していたユカツルノギャラリーがYuka Tsuruno Art Officeとして新たに動き出したことも含め、アーティストとしての第2章がはじまることを意識させられる大きな区切りとなる1年でした。
今は、アートに触れられる機会も多様化しているので、今回のBAINCOUTUREの企画のように、なるべく固定観念に捉われない柔軟なかたちで、作品発表の場を広げていけたらと思っています。

油彩作家 安田悠 展示会『あわいを繋ぐ』
会期:2022年11月18日 (金) - 2023年2月19日 (日)
一般開放日:日曜日 10:00-17:00
※BAINCOUTURE製品をご検討中で商談をご希望される方は
BAINCOUTURE®️ WEBサイトよりショールームのご予約をお願いいたします。
※閉館日は急遽変更する可能性があります。
最新のご案内はInstagramアカウントをご覧ください。
https://www.instagram.com/baincouture.bathroom/
主催:BAINCOUTURE®️(ニッコー株式会社)
協力:ユカツルノ・アートオフィス
会場:BAINCOUTURE®️ 東京ショールーム
(東京都千代田区西神田3-8-1千代田ファーストビル東館1F)