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「お風呂はクリエイティブやアートから1番遠い場所」曽我部恵一にとってお風呂は徹底的に“休む”場所

曽我部恵一

1971年生まれ。香川県出身。1990年代初頭よりサニーデイ・サービスのボーカリスト・ギタリストとして活動を開始。1995年に1stアルバム『若者たち』を発表。2001年にシングル「ギター」でソロデビュー。2004年には自主レーベルROSE RECORDSを設立し、インディペンデントな活動を開始。以降、サニーデイ・サービスやソロアーティストとして音楽活動をするほか、執筆や俳優など様々な表現方法で活動を続けている。

ライブに訪れた場所で見つける「地元のお風呂」

曽我部さんは、ライブなどお仕事で行った地方の温泉に行くのがお好きだと伺いました。いつ頃から温泉に行くことが増えましたか?

自発的に行くようになったのは、ここ4〜5年かな。でも、よく行くというほどではなくて、気まぐれに行くという感じです。自分で車で地方に行ったり、ツアーやライブで呼ばれて地方に行ったりするようになってから、現場までの道中で探すようになりました。地方でやっている手作りのフェスなんかに呼ばれることがたまにあるのですが、そういうところが狙い目です。

地方の温泉って山の中にあって、あまり知らない土地で探すのは難しそうな印象があります。

そうそう。でも、例えば山道を走っていて、「この辺に温泉あるんじゃない?」みたいな感じで地図を調べるとあるんですよ。意外と温泉地だったりして、観光地っぽくはないんだけど、地元のおじいちゃん・おばあちゃんが入るような日帰り温泉がポツポツとあって。

具体的に、過去に行った温泉で印象に残っているところはありますか?

愛媛県の鈍川(にぶかわ)温泉に行ったのですが、山間のすごい渋い温泉地でよかったですね。その時も車で移動していて、東京から愛媛までは10時間以上かかるのですが、そろそろ疲れたし温泉でも入ろうかなって思っていたら見つけました。温泉地なのでいっぱい温泉があって、その中でも昔からあるような大きなホテルの中にある温泉に行きました。
あとは、長野県の別所温泉。ここも時間があるからって言って、その場で調べたらたまたま出てきた小さめな温泉地です。近くに川があって、雰囲気の良い温泉でしたよ。歩いて行ける距離にいくつかの温泉があって、大師湯と石湯というふたつの温泉をハシゴしました。

ものすごく有名な観光地というよりは、ローカルな温泉に行かれることが多いんですね。

箱根のような観光地ももちろんたまには行くんですけど、それって休みの日じゃないとなかなかできなくて。なので、仕事の道すがら温泉に寄ってのんびりお風呂に入る、みたいなのが好きですね。立派なホテルとか旅館じゃなくて、地元の人が入るような町の温泉が庶民的でいいなと思います。

ローカルな温泉で言うと、小田原の山間にあったすごいちっちゃいお風呂も印象的だったな。おばあちゃんが管理人をやっているんだけど、そのおばあちゃんが入り方とか作法にすごくうるさくて(笑)。たまたまその温泉に行く道中に車で友達とすれ違って、「あそこのお風呂は、おばあちゃんがうるさいから気をつけて」と言われていたので、分かってはいたものの、本当にうるさくて面白かったです。でも、そういうならではの体験も好きですね。

お風呂時間は「素」の自分になれる時間

ご自宅でお風呂に入るのもお好きですか?

好きですね。絶対に毎日お湯に浸かるとか、ものすごいこだわりがあるとかではないけれど、時間があれば入るという感じです。あ、でもお風呂とトイレが一緒の部屋は嫌ですね。どうせ入るならただ体を洗うだけじゃなくて、ゆっくり湯船に浸かって休みたいです。

温泉に入るのと自宅のお風呂に入るのでは、何か使い分けや気持ちの違いはありますか?

家のお風呂に入るときは、読書したり映画を見たりすることがあります。温泉だと、周りも静かに入っているので、とにかく静かに休みます。でも、どちらでも気持ちとしては一緒です。家じゃないところでお風呂に入るのはもちろん良いなと思いつつ、どっちでもとにかくリラックスするのが1番重要かな。

お風呂に入る時に考え事をしたり、閃きが生まれやすいという人もいると思います。曽我部さんはお風呂に入っている時に良いアイデアが出ることはありますか?

どうだろう…。どちらかというと、「今日はもう仕事終わりにしよう」というタイミングで入ることが多いんですよね。お風呂入ったらもう寝ようかなと。だからものすごく考え事をしたりはしないかも。

でも、お風呂に入ってのんびりとリラックスできている時だからこそ思いつくアイデアももちろんあると思いますよ。前向きな発想が出てくる気がします。お風呂って、平和じゃないですか。普段は外に出て、鎧のようにスーツを着たりネクタイを締めたりして、人とコミュニケーションしたり仕事したり、社会で闘っていますよね。一方でお風呂では裸で、丸腰で、争いのようなものから1番遠い場所だと思うんですよ。お風呂にいる時は安心しきっているでしょう?そういう平和な場所で考えることは、良い方向に向かうことが多いんじゃないかな。

曽我部さんご自身のクリエイティブにも、お風呂時間は影響を与えていると思いますか?

いや、お風呂に入るという文化がなかったとしても、作っているものは変わらないと思います。そんなに影響ある人いるのかな?むしろ、みんなもうちょっと「オフ」を求めてお風呂に入るんじゃないかな。

僕としては、お風呂はクリエイティブとかアートとか、そういうものからも1番遠い場所であってほしいなと思っています。おじいちゃんでも子どもでも、みんなが「ばか」になれるというか、素の部分で「気持ちいな〜」って思える場所。そういう時間って大人になればなるほどどんどんと減っていくからこそ、温泉に行ったりお風呂に入る。そんなところで、「あの曲のアレンジどうしようかな」とか考えたくないですね(笑)。

曽我部恵一が選ぶお風呂で聞きたいプレイリスト

🎵BAINCOUTURE playlist by Keiichi Sokabe

◼︎プレイリスト一覧
01.リチャード・デイビス,フレディ・ハバード – A Child Is Born
02.William Orbit – Pavane Pour Une Infante Defunte
03.Rhythm & Sound – Queen in My Empire
04.Augustus Pablo – Unity Dub
05.Terry Callier – Cotton Eyed Joe
06.Lantern Parade – 光
07.Aphex Twin – Flim
08.Theo Parrish – Summertime Is Here
09.Smog – Your New Friend
10.スクエアプッシャー – Iambic 9 Poetry
11.尾崎友直 – For Y.O
12.Richard Beirach – Sunday Song

プレイリストを聴くにはこちらから

今回は、曽我部さんにお風呂時間に合わせたプレイリストを作っていただきました。どんなテーマのプレイリストか教えてください。

邪魔にならない、お風呂のお湯のような音楽です。お湯のような、というかお湯です。聞いたらなるほどって思ってもらえると思うので、聞いてみてください。

お風呂の時間ってだいたい1時間くらいかなと思って、そのくらいの長さにしています。基本的には結構ゆったりとしているけれど、ところどころにアクセントとなるようなリズムがある曲も入れています。すごくアカデミックな曲もちょっと違うかな、と感じてレゲエやダブも入れてみましたが、自然と馴染んでくれました。全体を通して柔らかく慈愛を感じる曲を中心に構成しています。

アカデミックな曲はお風呂で聞くには合わなそう、というのはなぜでしょうか?

裸でリラックスした状態で聞くものだからかな。お風呂は、自分を守ってくれる学歴とかお金とか洋服とか、そういうものを取り払っていく場所だから、アカデミックなものよりレゲエやダブのようなものが合う気がしたんです。むしろ精神性が高くて、自分のコアな部分に近づいていけるような深い音楽だと感じます。

特におすすめの1曲をあげるとしたらどれですか?

1曲目の「A Child Is Born」かな。リチャード・デイヴィスというジャズピアニストの曲です。やっぱりピアノの綺麗な曲はリラックスして聞けると思います。プレイリストにはギターの曲もいくつか入っているのですが、ギターとかピアノのような弦楽器ってなんとなく、肌に近いように感じます。人と喋っている感覚にも近いのですが、声で優しくささやくような表現は、お風呂に合うかもしれないですね。

ちなみに曽我部さんご自身も、普段からお風呂で音楽を聞かれることは多いのでしょうか?

こうやってプレイリストは作ったのですが、僕自身は聞かないんですよ。自分にとっては音楽は仕事だから、お風呂では聞きたくないなって(笑)。流れていると集中して聞いちゃうし、「今のところいいな」とか考えちゃいます。だから、むしろお風呂では音楽から離れるようにしています。

そうなんですね(笑)。そんな曽我部さんが作られたプレイリストですが、どんな人におすすめしたいですか?

子どもでも、おじいちゃん・おばあちゃんでも、誰でもおすすめです。

お風呂は、普段色々な引力に反して生きている体を温かく解放してくれる場所です。気持ちよく、「何も考えない」ことができる場所ですよね。温泉やお風呂はすごく強力で、1人で入ると「あ゙〜」って声が出るじゃないですか。人間には鳴き声がないとされているけれど、あれが人間の鳴き声なんじゃないかなって思うような声が出る。そんな声を出しても、心地よく馴染むようなプレイリストとともに、お風呂でリラックスしてください。

Text :Natsu Shirotori
Photo:Yuki Nobuhara ※プロフィールのみアーティスト提供
Release:2023.05.31

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