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【前編】北軽井沢と東京の2拠点で、自らつくる手触り感のあるお風呂時間|スマイルズ創業者・遠山正道 BAINCOUTUREと考える理想のバスルーム vol.1

BAINCOUTUREでは、お客さまそれぞれのライフスタイルにあったオーダーメイドのお風呂空間を提供しています。この連載は、そんなBAINCOUTUREの制作チームによって、さまざまな業界の最先端にいる方々の理想のお風呂をつくってみようという企画です。

最初にご登場いただくのは、「Soup Stock Tokyo」「PASS THE BATON」などで知られるスマイルズ創業者の遠山正道さん。前半ではまず、日常におけるお風呂時間のこだわりや忘れられないお風呂体験など、遠山さんの人柄に触れられるお話をBAINCOUTUREのショールームにて伺いました。

遠山正道

1962年東京都生まれ。2000年株式会社スマイルズを設立。「Soup Stock Tokyo」のほか、ネクタイブランド「giraffe」、ニューサイクルコモンズ「PASS THE BATON」、海苔弁専門店「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」を展開。最近では、小さくてユニークなミュージアム「The Chain Museum」、アーティストと出会えるプラットフォーム「Art Sticker」などをスタート。さらに、サブスク型の幸せ拡充再分配コミュニティ「新種のimmigrations」を2020年9月より始動。2023年4月より女子美術大学の教授。

二つのお風呂が楽しめる北軽井沢の別荘

北軽井沢の「Tanikawa house」外観(提供)
まずは遠山さんの生活におけるお風呂時間について、お話を伺いたいと思います。

遠山さん 朝風呂タイプで、毎日欠かさずに入ります。今日(インタビュー)も、ちゃんと入ってから来ました(笑)。

最近は週末「Tanikawa house」という北軽井沢の別荘にいるんだけど、そこにはお風呂が二つあります。ここは1974年に詩人の谷川俊太郎さんが、建築家の篠原一男さんに一編の詩を渡して建ててもらった別荘で、ここにいる間はできるだけライトも音楽もつけないので、お風呂でも電気をつけずに過ごしています。

「Tanikawa house」にある内風呂(提供)
それぞれのお風呂について、教えていただけますか?

一つ目が内風呂で、小さな窓が一つあるだけなんだけど、朝には窓から入ってきた光が水面でキラキラするんですよ。北軽井沢では朝の4時とか5時に起きて、寝てるか覚めてるかわからないような状態でいろんなことを考えるんだけど、お風呂でもいわゆる瞑想というか、そういう状態に近づこうとしているのかもしれない。

北軽井沢って、冬がめちゃくちゃ寒い。寝るときなんか手袋をして、湯たんぽ抱えるくらい(笑)。だから、お湯がすごくありがたくて、キッチンでお湯を出して手をつけたりもするんです。お風呂でも足湯をして、気がつくとそのままお風呂に入ってるし、そうすると体が痺れていって解凍されていくような感じがする。換気扇をつけたことがなくて、湯気が充満した薄ぼんやりとした状態でお風呂に入るのがいいんだよね。

「Tanikawa house」に新設された露天風呂(提供)
もう一つのお風呂は?

一年ほど前に、小屋のあったところに檜を使った薪風呂をつくりました。薪を炊くには4時間くらいかかるんだけど、露天風呂なので入りながら木漏れ日も楽しめる。それが最高ですね。春から夏にかけて春蝉の声と新緑でとにかくにぎやかになるし、冬には氷が張るので斧で割ってお風呂に入る。お風呂の片側に崖があるんだけど、この前重たい檜の蓋を開けようとした時に体勢を崩して、そのまま1.5メートルくらい転げ落ちちゃったことがあります(笑)。

それはさておき、私はサウナもそれなりに好きで、新橋のサウナで売ってるグリーンのパンツを家でもずっと履いていて、友人が来た時にはみんながサウナパンツや水着を着て入ってます。それで、ボイラーを囲めばサウナが作れるかもしれないと思って、今ちょうどその図面を引いているところ。この別荘は床が傾斜になっていたりして、不思議な形をしているんだけど、その形態を借りたような、しゃがんで入るようなサウナにしたいと思っています。

ご自身でなんでもつくってしまうというのが遠山さんならではだと思うのですが、お風呂自体へのこだわりってあるのでしょうか。

いわゆる寝転がれるようなお風呂が好きではなくて、日本式の直角なものに入りたいんだよね。車もシートを倒すのが苦手だからセダン一択。この露天風呂もそんな形になっているんだけど、これはお風呂の専門ではない地元の大工さんにつくってもらったものなので、浸水しないための技術まではなくって。乾燥すると木の隙間が空いて水が漏れてしまうらしいので、入っていない間もつねに水を貯めておく必要がある。このあいだ大工が見にきてくれたんだけど、劣化もなく綺麗に使えているそうで、安心したよ。

シンプルで機能的な東京でのお風呂時間

東京のご自宅では、どんなお風呂時間を過ごしていますか。

代官山に30年以上住んでいて、家のお風呂は洗い場のないユニットバススタイル。だから、体を洗ってから入るということをやったことがない。お風呂に入って、お湯を抜いて、湯船を洗って、水のシャワーを浴びてから出る。

バスタオルって洗濯するの大変じゃないですか。だから、いつもハンドタオルで拭いてます。北軽井沢だと使ったハンドタオルを洗ってそのまま干して乾かしちゃう。歯磨きも湯船の中でしますね。昔結婚した頃に山小屋に泊まった時に、山では洗剤を使えないので、塩で歯を磨くんだけど、それ以来お風呂に歯ブラシと塩を置いて使っている。

そうすると、お風呂にあるものはかなりシンプルなのですか。

そうだね。あとは一時期、スプレーするだけで1分くらい放置すれば洗わずに流せる洗剤も使ってたね、便利で。1分って中途半端で、ドライヤーで乾かしたりすると忘れちゃったりするわけ。だから、何もしないと決めて、1分間仁王立ちしてた(笑)。

お風呂に入っている時間は長いですか?

長めですね。入っている間はあまり考えごとはしないけど、ちょうど昨夜ブレストしていたアイデアがイマイチだったから考えてみようみたいなことはある。でも、いいアイデアを思い付いちゃってもメモができないから、必死で覚えておくしかない(笑)。一時期オーディブル(書籍の朗読サービス)が好きで、お風呂でも聴きたいなと思ったことがあるけど、それはもったいない気がして、できるだけ何もしないようにしています。

タオルなど、お風呂で使うものへのこだわりは?

普段の洋服もアクリル繊維のものが楽だから、面倒くさいものは着ないんだけど、タオルも同じように薄くて化繊が入っていて、絞るとすぐ乾くようなものが好きだね。重いようなものは使わない。ちょっとだけ長めだと背中も拭きやすいし、誰か来たときには腰に巻けるからいいよね。

スイスでの感動体験と、瀬戸内の檸檬風呂

では、少しお話を変えて、記憶に残っているお風呂体験についてもぜひ伺いたいです。

10年以上前だけど、スイスにピーター・ズンドーという建築家が建てた「テルメ・ヴァルス」 という温泉施設へ行ったんだけど、あれは素晴らしいですね。草原の中にあって、迷路めいた複雑な構造で、全体的に薄暗くて。ただよう湯気に光が射してゆらゆらしているような、そんな感じで感動したなあ。影がすごく素敵だった。

それは結構遠い場所にあるんですか?

電車で3時間くらいかけて、わざわざいくようなところで、チーズ屋さんと教会の鐘しかないような場所なんだけど、「ズントールーム」という角部屋に泊まるというために行きました。

それから、スマイルズがアーティストとして豊島の瀬戸内国際芸術祭にあわせて「檸檬ホテル」というホテルをつくりました(※現在は休業中)。その何年か前の経営合宿で「今後ホテル王になりたくない?」という話をして、ホテルといっても、ラスベガスにあるようなラグジュアリーなチェーンではなくて、もっと小さなユニークなホテルがいいなと。それで、世界中のレモンの産地に檸檬しばりのホテルをつくろうと考えた。レモンが積んであって、お客さんがスライサーを使ってお風呂にレモンを浮かべ放題できる、みたいな。先に「檸檬ホテル」という商標だけとって、アイデアをいつ使えるか考えていたんだけど。

檸檬ホテル外観(提供)

檸檬ホテル外観(提供)

瀬戸内国際芸術祭でつくろうと。

そう。400坪の土地に1本の檸檬の木を植えて、ホテルをつくった。檸檬の葉っぱで草木染めした布を使って、檸檬の光で目覚める体験を取り入れてみたり、檸檬ビールをつくったり。でも、実際に檸檬風呂をやろうとすると、檸檬が貴重だからそんな破廉恥なことはできないということで、使わずに余った切れ端を浮かべた檸檬風呂になりました。

さいごに

ここまで、前半では遠山さんの日常におけるお風呂時間のこだわりなどを伺いました。後半記事では、遠山さんとともに理想のお風呂を考えながら、アイデアを具体的なイメージにしてみたいと思います。ぜひ、お楽しみに。

つづく

Text :Takahiro Sumita
Photo:Yuki Nobuhara
Release:2023.07.14

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