暗さや木漏れ日、木肌を感じられる、自然とともにあるお風呂|BAINCOUTUREと考える理想のバスルーム vol.1 スマイルズ創業者・遠山正道(後編)
BAINCOUTUREでは、お客さまそれぞれのライフスタイルにあったオーダーメイドのお風呂空間を提供しています。この連載は、そんなBAINCOUTUREの制作チームによって、さまざまな業界の最先端にいる方々の理想のお風呂をつくってみようという企画です。
最初にご登場いただいたのは「Soup Stock Tokyo」「PASS THE BATON」などで知られるスマイルズ創業者の遠山正道さん。前半の記事で伺ったお風呂にまつわるエピソードの続きとして、遠山さんにヒアリングを行いながら、具体的な理想のお風呂のアイデアをCGパースとして表現してみました。
遠山さんが妄想する理想のお風呂とは?

遠山さん どの程度の妄想でいいのかわからないけれど、一つは「落水荘」(※建築家フランク・ロイド・ライト設計の名建築)のようなお風呂は羨ましいよね。滝の上に建築があるみたいに、自然の中で湯船に炊かれたお湯がドバッと落ちてきて、また湯船から溢れていくようなもの。でも、多分それは難しいから一旦置いておいて・・・(笑)。
いえいえ、妄想ですから、ぜひお聞かせください。お風呂ってお湯を入れるシーンが特徴的だけど、お湯を抜く方は全然何もしていないじゃない。あれだけの湯量があるのに、ただ抜くのがもったいない気がして、“抜きがい”を設計したらいいんじゃないかと思って。たとえば、浴槽の壁面にスリットがあって、水を抜くときはそこから流れるようなイメージで、それがこのお風呂の一番美しいシーンになる。「落水荘」ならぬ「落水槽」ですね(笑)。一瞬の“抜く”美学=“落水の儀”を楽しむようなお風呂。

「テルメ・ヴァルス」(※建築家ピーター・ズントー設計のスイスにあるホテル / スパ施設)に行ったときに、階段を使ってお湯から出るとだんだんと重力を感じたわけ。それを家でもやりたいなと思って、湯船に入ったまま栓を抜いてみると、徐々に水が抜けて体が重くなっていく。牛が牛肉になっていくみたいに、精神と肉体が分離しているような感覚になった。同じように、水が抜け切るまでにかかる時間を設計することで、体にかかっている浮力がだんだんと抜け落ちながら、水が床にぶつかる音も楽しむことができる。
あとは、浴槽の真ん中に木が生えているようなものがいいんじゃないかな。お湯の中で木が成立するのかわからないけど、木があって、まわりから眺めたり、木にもたれて木肌を感じながらお湯に浸かることができる。それで、北軽井沢みたいな木漏れ日を感じることもできるようなもの。アイデアをあわせると、水を抜くと木のまわりに水流ができて、大きな流れに流されないように木にしがみつくようなお風呂があるといいよね。

障子越しの光も素敵だから、湯船の三方に障子があって、外の光が入ってくる逆行燈のようなお風呂もいいですね。日本家屋のような雨戸、障子、ガラス戸があって、それらに手を伸ばして明るさを調整できる。暗さを物理的に調整するようなお風呂。
遠山さん自身が絵を描いたタイルを使ってみても面白いかもしれませんね。ずっとタイルに絵を描いてるんだけど、かつて96年に個展をやったときにトイレ・タイル建材の会社がスポンサーをしてくれて、私の絵を使った特注商品をつくったこともありました。私のタイルが全面にあるようなサイケな風呂も面白いかもね(笑)。
遠山さんへのヒアリングからBAINCOUTUREがCGパースを制作

遠山さんが描く理想のイメージから着想を得たお風呂のCGパースが完成しました。テーマは、木肌を感じるこじんまりとしたお風呂。優しげな木漏れ日を感じられる、陰翳礼讃を意識した明るすぎない空間に仕上がりました。ここでは、こだわった3つのポイントをご紹介します。
①小さな空間を彩る障子やタイル

まるで妙喜庵待庵のような障子で仕切られた小さいお部屋。ヒノキでできた浴槽の三方にはガラスを挟んで障子を設置し、木漏れ日が入る構造になっています。タイルの壁面には、遠山さんのお話にあった「テルメ・ヴァルス」から着想を得た、セラミックタイルを採用。横長の細いタイルを互い違いに敷き詰めつつ、間の目地をほとんどなくすことで縞模様が目立つようにしました。お風呂でゆっくりと過ごしながら考え事をされるということで、洗い場もとてもコンパクトに。ただし、小さいながらに使いやすく、ものがすっきりと収まるニッチ棚(※ 壁面に凹んだスペースをつくり、その内部を収納や飾り棚として使うもの)をつけ、お風呂に入りながら手に取ることのできる機能性は残しました。

②段違いに水が落ちる構造

最大の特徴でもある、落水荘のように段階的に水が落ちていくこれまでにない排水の構造。ハの字型のスリットなどは遠山さんのアイデアをそのまま生かしつつ、高さの違う2つの浴槽が段違いになっているような形状にすることで、自然の川の水の流れを再現しています。安全に上段浴槽に入るための配慮として、ステップを用意。下段の浴槽は足を入れる足湯としても機能します。また、栓を開けてお湯が流れて抜け落ちていく様子を、浴槽の中からだけでなく、洗い場に椅子を置いて頭をからっぽにしながら眺めることができます。
③木の面影を感じられるという発想
最初は遠山さんのアイデアをそのまま生かせるように、浴槽の真ん中に木を設置したラフを検討しました。しかし、実際の利用シーンに即してパースを組み立てていくなかで、木肌を感じたいという遠山さんの思いを生かしながらも入浴体験の満足度をさらに上げる方法として、木を浴室の外に設置しつつ天井部を開口にし、浴室の内外をつなげるというアイデアに辿り着きました。
障子の外から見える木漏れ日、大きく開口した天井から見える木の幹や聞こえてくる葉のこすれる音、浴槽へと入ってくる落ち葉、浴槽にもたれた時のヒノキの木肌の感触や香り。これらのポイントを生かすことで、結果として、お風呂空間と外にある自然がつながるような、五感を通して自然が感じられるような空間に仕上がりました。

- 遠山さんからのコメント
- 素晴らしいですね。紅葉の季節も似合いそう。障子を全部閉めると、瞑想的なゆたかな時間になる。しばし瞑想をした後に、3枚のうち好きな障子を開けていくような使い方のイメージができた。
北軽井沢の家では、お風呂に入ると正面に山が見えるんです。左側に向いて座ると今度は建築が見える。この風呂でも、同じようにまずは正面の障子を左右対称に開いて、シンメトリックの先に木の向こう側の山を楽しむ。次に障子を端まで開け切って、家そのもののシルエットを眺める。
右側の障子の向こう側にもサウナなんかをつくったらさらに楽しくなりそうですね。縁側には椅子などの家具は置かず、そのまま縁側に腰掛けてみたり。それから、手前の中槽の方に浸かりながら、栓を開けて“落水の儀“をする。高低差や広がりのなかに自分の居場所を見つけて、気がつくと90分くらいは過ごしてしまうようなお風呂になりそうです。

さいごに
さまざまな業界の最先端にいる方々と、理想のお風呂をつくってみようという企画の第一弾として、遠山正道さんとさまざまな過ごし方のストーリーが広がるお風呂をイメージすることができました。第二弾からも様々な視点から理想のお風呂を考えていきます。
ご期待ください。
Text :Takahiro Sumita
Photo:Yuki Nobuhara
Release:2023.08.09