【後編】室内外を浴槽がつなぐ、自然を感じる新しいお風呂体験|建築家・島田陽 BAINCOUTUREと考える理想のバスルーム vol.3
BAINCOUTUREでは、お客さまそれぞれのライフスタイルにあったオーダーメイドのお風呂空間を提供しています。この連載は、そんなBAINCOUTUREの制作チームによって、さまざまな業界の最先端にいる方々の理想のお風呂をつくってみようという企画です。
今回ご登場いただくのは、関西を拠点にさまざまな空間体験の可能性を模索する建築家の島田陽さん。後半では、前半の記事で伺った暮らしとお風呂にまつわるエピソードの続きとして、島田さんにヒアリングを行いながら、具体的な理想のお風呂のアイデアをCGパースとして表現してみました。
お風呂がよければ、自宅は確実によくなる
島田さん 浴室はかなり重要だと思っています。住宅の機能がどこまでなくなっても平気かと考えてみると、日本人にとっては浴室がない住居は考えられないと思うんです。キッチン機能はウーバーイーツなどのサービスによって外部化していくことができますが、やっぱり浴槽に浸かるということは寝ることの次に欠かせないんじゃないかと。なので、僕が自分で設計をするときにはいい場所にお風呂をつくるようにしています。いい場所にあれば、風通しも日当たりもよくて手入れが少なくて済みますしね。
過去に設計したなかでも隣接するバスコート(※浴室から外に続く、囲いのある屋外空間)を取り入れることがありましたが、外に面していて裸で過ごすことができるというのは得難い快楽だと思うんです。なので、屋上とか3階のような開放的なところにお風呂を置くことが多いですし、もしも1階にお風呂をつくるとしても、浴槽を地面に埋めて浴槽の上端が地面に接しているような形で沐浴が楽しめるなど、工夫をします。
設計の段階で言っても、お風呂の優先度は高いということですね。余った場所にお風呂を押し込むということはないですね。むしろ、水回りさえきちんとできていれば、それ以外は極論どうにでもなります。そういう点でも、キッチンと浴槽は非常に重要な場所なんです。リビングも寝室も、水回りがうまくいけば、いかようにでもつくれますし、家事をする方が気持ちよく過ごせるためにも水回りを使いやすくすることはとても重要です。
一番はやはりプライバシーとの関係ですね。浴室がどれくらいパブリックな空間であるべきか。家のなかにおいてもどのくらい見える場所にあるか、ということです。極端な例だと、オーストラリアで建てた家で、ミニマリストの一人暮らしだったこともあり、玄関が入ってすぐの場所にガラス張りのシャワールームをつくったことがあります。浴室のガラス仕上げって楽なんですよね。防水の点でも、汚れないという点でも。それに、ガラスは反射するので、部屋を大きく見せたいときにも有用だったりして、可能性があるんです。
もしも、これまで実現できなかったようなお風呂のアイデアがあればぜひ聞いてみたいです。自然の中に浴室があるようなことはチャレンジしてみたいですね。これまでに庭の一角にお風呂があるというのをやったことはあるのですが、もっと庭と一体化するような浴室をつくってみたいなと。現実的なことを考えると、プライバシーの観点からなかなか外にはつくれないですが、地面を掘って露天風呂をつくってみるようなことも面白いかもしれません。
室内外をつなぐ、境界としての浴槽
タレルの「Heavy Water」 でいえば、潜った向こう側に露天風呂のような空間があって、上には空があって、下には水面だけがあるというのがいいですよね。同じように浴槽が家の内外をつないでいて、水のなかを潜っていくことで外に出られるような構造は面白いかもしれません。水にはそれなりの断熱効果があるので、浴槽にガラスの壁がおりているだけの構造にして。
外と中をつなぐ境界としてのお風呂ですね。人間はつねに服を着ているわけで、裸になる瞬間は貴重なんですよね。そういう点でも、浴室というのは自分を解放できるいい場所だと思います。それが外につながっているというのはなおさら面白い。昔マレーシアのジャングルに行ったことがあって、船からおろされて置いていかれて、動物観察小屋みたいなところに泊まるんですが、まわりに誰もいないので、素っ裸になって川に入って水浴びできるんですよ。それがとても開放感のある体験だった。自然の中で人目を気にせず裸になれる、原始に帰るような感覚は大切だなと思います。
具体的に潜ることのできるお風呂って、どんなイメージでしょうか。(スケッチを描きながら)部屋のなかに穴が空いていて、水が溜まっているんです。浴槽を使わないときには、床を延長させて浴槽を隠せるというのも面白いかもしれません。それで、細長い浴槽の真ん中がガラスで区切られていて、潜って外に行くことができる。外側はバルコニーというよりも、土だったりナチュラルな感じ。
なるほど、かなり原始的かつ体験が印象的なお風呂になりそうな気がします。より自然に近い形にするなら、浴室自体を洞窟のような空間にする。ネジなどの人工物は極力見えなくして、照明も壁面にスリットがあるだけで基本は電気をつけずに外からの光が水面に映っているようなイメージです。浴槽自体も曲線的で水溜りのようなものにしたり、小さいタイルを積層すれば自然っぽさが増していい気がします。
この家自体も豊かな自然がある場所にあるんじゃないでしょうかね。たとえば、那須などの山の中のひらけたところ。晴れていなくても、曇っていたり霧がかっていてもそれはそれで魅力になる気がします。
島田さんへのヒアリングからBAINCOUTUREがCGパースを制作
テーマは「潜ることで室内外がつながる自然体験としてのお風呂」。ここでは、制作にあたって考えた3つのポイントをご紹介します。
①内から外へ、潜ることで景色が変わる
島田さんのお話にあった恐山の温泉小屋でのお風呂体験や、タレルの「Heavy Water」からインスピレーションを受けて、お風呂に潜ることで屋外と室内で異なる体験が生まれるようなお風呂を目指しました。
当初は内外をガラスで仕切るというアイデアも考えましたが、島田さんとも議論をするなかで、潜って外へ出た時に新しい景色が広がる方が感動的ではないかという意見に。洞窟のように静かな室内と、明るい自然豊かな屋外。その両者を潜るという行為で切り替えられる、体験を重視した空間に着地しました。
また、足の裏に受ける感触が内と外で変わるのも面白いと考えました。お風呂から上がって水に濡れた状態でまわりを歩くことで、屋外ならではの感触が得られるようになっています。この浴槽の形状や素材選定は外に広がる自然とお風呂という人工物を柔らかくつなぐ役割としても機能し、浴槽を水たまりのような存在にも見せてくれます。
②違和感なく光を際立たせる照明と壁面
壁の下端までお湯を入れた際、ほんのり水が溜まっている部分が光る状態を目指して、屋内の調光にもこだわりました。島田さんからも、ダウンライトが並んでいるとポツポツと光のラインが際立ってノイズになってしまうという意見があり、柔らかい光を壁に当てて間接照明にすることで、部屋全体がほんのり明るくなるようなライティングを目指しました。これにより、自然な形で外からの光が広がっていき、暗がりそのものに焦点をあてられる構造に。それはまるで洞窟の隙間から差し込む光のようにも見えてきます。
また、浴槽自体を曲線的にするために細かいモザイクタイルを敷き詰めているのですが、ここでも反射によるノイズを減らすために、自然に見えるような石目模様のマットなモザイクタイルを採用。タイルの貼り方自体も、壁面に目地が目立たないよう、細長いタイルを乱張りにすることで、より自然や洞窟に近い仕上がりを目指しました。
③過ごしやすさよりも、体験の純度を
今回のお風呂には、室内側の暗さや浴槽の階段・潜るための外壁など、使う上で多少のハードルを感じる部分があります。しかし、島田さんのご自宅での屋外を通って使うトイレのエピソードのように、多少のハードルを受け入れながらも、それ以上にその空間自体の霊性のようなもの、あるいは体験の純度を上げることを目指しました。
これまでの連載では、過ごす場所として心地のいいお風呂体験を中心に提案をしてきました。第三段となる今回は、島田さんとの対話の中で感じ取れた生活や体験を既成概念に捉われず考えることや、精神的な要素に重きを置いたという点でもBAINCOUTUREとしても挑戦的であり、これまでにない新しいお風呂体験が生まれたのではないかと感じています。
- 島田さんからのコメント
- 普段はクライアントから伺ったイメージを基に、自分達で立ち上げていくので、クライアントのような立場でふわっとした話を広げてイメージが立ち上がってくる体験は面白かったです。自分で設計している時は無意識にイメージに制限を設けているのだと気付かされました。普段は明るい浴室を設計する事が多いのですが、沐浴的な昏さのある空間で、モザイクタイルの質感も面白く、自身のデザインにフィードバック出来そうです。
Text :Takahiro Sumita
Photo:Yuki Nobuhara
Release:2023.12.11
さいごに
さまざまな業界の最先端にいる方々と、理想のお風呂をつくってみようという企画の第三弾として、建築家・島田陽さんとともに、室内外を浴槽がつなぐ新しいお風呂体験を考えてみました。これからも様々な視点から理想のお風呂を考えていきます。ご期待ください。