【前編】非日常を際立たせる日常体験としてのお風呂|ホテルプロデューサー・龍崎翔子 BAINCOUTUREと考える理想のバスルーム vol.4
BAINCOUTUREでは、お客さまそれぞれのライフスタイルにあったオーダーメイドのお風呂空間を提供しています。この連載は、そんなBAINCOUTUREの制作チームによって、さまざまな業界の最先端にいる方々の理想のお風呂をつくってみようという企画です。
今回ご登場いただくのは、ホテルプロデューサーの龍崎翔子さん。前半ではこれまで龍崎さんが体験してきた印象的なお風呂について、ホテルプロデューサーならではの視点でお話を伺いました。
ホテルプロデューサーにとっての「お風呂」
龍崎さん
私はお風呂でアイデアが浮かぶことが多いんです。5年以上前になりますが、湯河原の温泉旅館を運営していた時、稼働が低い時期の平日にどうやったら学生が来てくれるかということを考えていたんです。温泉旅館にこもって卒論を書いてもらえないかと思いながら、旅館の大浴場でお風呂に浸かりながら考えてみると、みるみる構想がまとまって、お風呂上がりにそのまま企画をまとめてプランをリリースしました。それがこれまでで一番売れたプランになりました。
そうなんです。最近も、とある遊休地の活用方法を考える事業合宿があったのですが、企画を完成させてからお風呂に入ったら、また別のアイデアが思い浮かんで。風呂上がりに2時間くらいで急いで企画をまとめて提出しました(笑)。

たとえば、大浴場のような場所だとスマホもないし何もできないから、強制的にシンキングタイムに入るんですよね。まるで“覚醒してる睡眠時間”みたいに、頭の中がいい感じに整理されて、お風呂から上がる頃にまとまっている。なので、普段からお風呂に入る時間を大事にしたいとは思っています。
銭湯やサウナももちろん好きなのですが、それは銭湯にいる人々の人間模様というか、日常の人々の素の状態を見られるのが面白くて。サウナでみかんをくれる地元のおばあちゃんがいたり、常連さんの使い込まれたシャンプーセットが置かれていたり。そこにしかない狭い日常がたまらなく愛おしくなるんです。なので、銭湯は温泉とはまた違っていて、人の存在がその面白さを際立たせているのだと思います。
ただ、最近はサウナにテレビがあったりするので、こういう場所だとあまり考えごとはできないですね。本当はサウナにも何もない方がいいと思います。家のお風呂も同じように、何ヶ所かにスマホをつけられるケースを常備しているので、すぐにYouTubeを見ちゃって、考えごとができない環境になっているのは反省点ですね。
記憶に残る温泉・ホテルでのお風呂体験たち
はい。でも、いわゆる温泉通のような感じではなくて。温泉でも入浴体験としてどういうことができるのかをつねに考えてしまいます。特に印象に残っているのは、鹿児島の霧島市にある「忘れの里 雅叙苑」 という旅館。鹿児島にある超高級リゾート「天空の森」 を手がける事業者がやっているのですが、この「天空の森」は日帰り利用でも何万円もするようなプレミアムなところなんです。
それはかなりのインパクトですね(笑)。なので、それに少しでも近い体験をしてみたいということで雅叙苑を訪れたのですが、そこのお風呂が面白くて。まず、脱衣所とお風呂が同じ空間にあるんです。その脱衣所にデイベッドがあって、お風呂とデイベッドを自由に往復することができる。
もちろん、宿自体もすごく素敵なんです。茅葺屋根の古民家を移築したような、もはや村のような旅館なのですが、いわゆる温泉旅館とも古民家宿とも異なる独特の空気がある。里山を再解釈して作られた架空の村みたいな場所なんです。温泉も部屋ごとに異なるようで、川に面した半露天の温泉があったり、巨岩をくり抜いて作ったお風呂があったり。かなりワイルドな温泉体験で、すべてが新鮮でした。

そうなんです。私が泊まった部屋は、お風呂自体がリビングルームになっているような感じでした。プールサイドならぬ「お風呂サイド空間」があるような感覚。最近の住宅は高機密高断熱なので、なかなか自然を感じることはできないと思うのですが、その中でもお風呂って水・風・火などの気配を唯一感じられる場所だと思うんです。だから、ただ体を洗う場所というだけではなくて、もっと生活空間の風景の一部になればより豊かになるのだということを、雅叙苑で再認識しました。自分で作るなら雅叙苑みたいなお風呂がいいなあと、その時に思ったくらいです。
他にも、印象に残っているお風呂体験があれば教えてください。
沖縄の「mui たびと風のうつわ」 というホテルも、面白い体験でしたね。というか、少しハラハラするんです(笑)。リビングの真横にお風呂があって、360度すべてが低い仕切りで、上半分はカーテンを閉めるだけ。シャワーを浴びようとすると、あちこちにお湯が飛び出そうで、ドキドキしながら入りました。でも、お風呂の上には天窓もあって、風が抜けるようなおおらかさを感じられて、お風呂体験としてはものすごく気持ちいいなと思いました。
もう一つ、同じく沖縄にある「MAKINA NAKIJIN」 というプライベートヴィラも印象的でした。お風呂がそのまま外につながっているので、お風呂の端まで行くと、裸のまま景色を見ることができるんです。溢れた水がそのまま森に流れているようで、もちろん落ちると危ないんですけれど、ほとんど真っ暗な空間で、夜は星が水面に反射する、最高の体験でした。
海外で見た日常のなかのお風呂体験
海外でのお風呂体験はシンプルなものが多い印象ですが、フィンランドのサンタクロース村にあったヴィラの、雪山のジャグジーはとても記憶に残っています。室内のサウナから出て、吹雪いてる中でそのジャグジーへ入る。雪の中へ裸で飛び込むことなんて普通はないわけですが、お風呂があることでその美しさを純粋に楽しむことができる。あの体験は、寒さ自体が観光資源になるという点でも参考になったし、これまでいろんなアイデアのインスピレーションになっています。
アルゼンチンのスキー場のプールサイドジャグジー ↗︎ 、 フィンランドのサンタクロース村、雪山のジャグジー ↗︎ (@shokoryuzaki )それから、アルゼンチンのスキー場でも、リゾートのプールサイドにジャグジーがあって、目の前をスキーヤーが滑り降りていくような面白い絵を見ながらジャグジーに入りました。お風呂に入るという日常行為を非日常空間ですることで、より非日常が際立つんだと思います。香林居でも屋上の貸切風呂から裸で大都会を見下ろすことができるように、お風呂で体験した景色って忘れられなくなるんです。

演出装置としてお風呂が役に立つという考え方は、ホテル作りにも大いにつながっていると思います。私がホテルを作る時には、DOを設計するのではなく、BEを設計することを心がけています。つまり、そこで何をするか(DO)ではなくて、どんなあり方(BE)を提案できるのか。プールサイドであれば、本を読んだり、携帯を見ることすらも特別になる。いつもやっている体験をすることで非日常がより際立つわけです。
非日常を際立たせるために日常行為がある、と。大好きなアーティストのライブが非日常すぎて楽しみきれなかったことってありません? せっかくライブに来ているのに、頭の中ではどうでもいいことを考えちゃって、集中できないみたいな。どんな体験も日常と非日常のバランスが大事なんだと思います。お風呂は日常生活の一部だけれど、お風呂体験のテンプレが強くあるからこそ、ちょっと環境が変わるだけで、体験の印象を大きく変える可能性を秘めているんだと思います。

さいごに
前半では龍崎さんのお風呂にまつわる体験を中心に、ホテルプロデューサーならではの視点でのお話を伺いました。後半の記事では、龍崎さんとともにより具体的な理想のお風呂を考えながら、アイデアを具体的なイメージにしてみたいと思います。ぜひ、お楽しみに。
つづく
Text :Takahiro Sumita
Photo:Yuki Nobuhara
※インタビュー写真、引用写真以外はご提供
Release:2024.1.15



