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【前編】アイデンティティを強化するファッションと、自分を見つめ直すお風呂時間|ファッションデザイナー・進 美影 BAINCOUTUREと考える理想のバスルーム vol.08

BAINCOUTUREでは、お客さまそれぞれのライフスタイルにあったオーダーメイドのお風呂空間を提供しています。この連載は、そんなBAINCOUTUREの制作チームによって、さまざまな業界の最先端にいる方々の理想のお風呂をつくってみようという企画です。

今回ご登場いただくのは、ファッションデザイナーの進 美影さん。MIKAGE SHINの代表取締役兼デザイナーとして、国内外で人気のブランドを運営しています。前半では、日頃からクリエイティブな活動をしている進さんのキャリアやお風呂を中心としたライフスタイルについてお話を伺いました。

進 美影

東京都出身。早稲田大学卒業後、一般企業入社を経てPARSONS美術大学に入学。卒業後、「個人の知性と強さを引き出す」をコンセプトに、現地ニューヨークでジェンダーレスブランド・MIKAGE SHINを立ち上げる。2021年3月、Rakuten Fashion Week TOKYOで特別支援枠で公式ランウェイを開催。2022年、日本メンズファッション協会よりBest Debutant賞を受賞。近年は乃木坂46や櫻坂46などアーティスト衣装製作も手掛ける。

Instagram: @mikageshin_official ↗︎ @mikageshin ↗︎  HP: MIKAGE SHIN↗︎  Youtube: MIKAGE SHIN↗︎

着る者の知性と創造性を引き出す洋服を作りたい

進さんが、ファッションに興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか?

進さん 10歳から13歳くらいの頃、平成初期に第一次キッズブランドブームがあり、また女子中学生向けファッション誌が次々に発刊されるなど、当時の東京のファッションシーンがティーン向けにも多様化した時代の影響を受けファッションに興味を持つようになっていきました。東京独自のガラパゴスなファッションの有り様に強く惹かれ、ファッション誌などから多様なスタイルの影響を受けていました。また、中学と高校がいずれも私服通学だったので、よりファッションに傾倒していったのだと思います。

当時は、ファッションのどんな部分が好きだったのでしょうか。

常に「こう在りたい」という新たな自分への変身願望を叶えてくれて、自信を与えてくれることです。自分自身が強くなれる心の鎧のような存在でもありました。

私の母は韓国籍で、私の幼少期に2度離婚しており、シングルマザーで育ててくれました。私が子どもの頃は現在のようなK-POPブームや韓国人気は全くなく、また現在ほどミックスの同級生やシングルマザーの家庭も多くはなかったため、「お母さん中国人だよね?」「なんでお父さんいないの?」「私たちと違うね」など、無邪気に周囲の家族環境との差異を突きつけられることが多々ありました。

そのなかで、ごく自然と自分のアイデンティティや女性の生き方について考えるようになり、ファッションは唯一心強い見方に感じました。周囲との差異やアイデンティティの中途半端さに自己否定感を持っていたなか、ファッションではなりたい自分になれ、自分次第で自分のアイデンティティを獲得できる。

社会には生まれる前から自分自身ではどうしようもできない要素がたくさんあるけれど、唯一、自分のことだけは自分自身で変えられる。在りたい自分は自分で決めていい。自己肯定的な部分も含めファッションが好きになっていきました。

ファッションデザイナーになる前には、一度広告代理店に就職されたそうですね。

幼少期から母を見ていて「結婚しても離婚することもあるし、女性も経済的に自立しないと生きていけいない」という漠然とした不安がずっとあり、経済的に自立したいという思いがありました。また、自分にはプロになれるほどスポーツや音楽などの才能があるわけではなかったので、人生の早い段階から進学校に通って大学に進学し、安定した大手企業で自分の興味と重なる業態で仕事ができればと思っていました。非常に現実的な子どもでした(笑)。

ファッションは好きだったので趣味として楽しみつつ、他のビジネス領域やマーケティング職や戦略立案にも興味があったので広告会社に就職しました。「社会や時代の流れ、人の動きを見て、人がよりよく生きるための新しいアイデアを創出し提言する」というフローは、アウトプットがアートか否かの違いはあれど、ファッションと根本的に通ずる部分があるので、やはりそうした一連の流れが本質的に好きだったのだと思います。

その後、25歳の時に会社を退職して、ファッションの道に進むことに決められたそうですね。パーソンズ美術大学在学中からコレクションを発表されていますが、当時から意識していることはありますか?

留学を決めた時から自分のブランドを立ち上げることを目標にしていたので、在学中からコンセプトは考えていました。女性の知性や創造性など、内面の凛とした強さや美しさを滲ませるような服を作りたいと思っていました。自分自身が家父長制の中で従属的・庇護欲的な女性像の押し付けや、セクシーさや性的に搾取される価値尺度で消費されることを嫌悪し続けてきたため、そうしたレッテルから解放され、ただただ女性が自分自身のアート性のために自己表現ができ、強く格好良く在ることを肯定できる服を創りたいと考えていました。

その思いを胸に、ニューヨークでファッションの美大に留学し、最初の学期末の課題で初めてウィメンズのコートを作りました。発表してみると、意外にも男性のクラスメイトたちからの方が反響が大きく、皆が着たいと次々に試着してくれて衝撃的でした。そこで初めて「本当にかっこいい服は性別や年齢関係なく人の心を動かすことができる」と気がつきました。現地では日本人男性デザイナーに「女性にメンズは作れない。やめちまえ」と非論理的な言葉を浴びせられたこともありましたが、「着たいと言ってくださる人がいるなら、それが全てじゃないか」と思ってきました。ファッションにおいて、最もナンセンスなことは意味のない制限なので。

ファッションデザイナーとして面白さややりがいを感じる瞬間はどんなときですか?

面白さを感じるのは新しい良いデザインを自分の中で導き出せた時や、新しい素材、技術と出合って触発される時です。自分なら、この1枚の生地をこういう服に落とし込んで新しい命を宿せるかもしれないと可能性を感じる瞬間は、何度経験してもわくわくします。20世紀までにありとあらゆるスタイルや表現手法が出し尽くされてきましたが、それでも自分にしかない表現があり、その可能性に一番最初に出会って感動できるという特権もあります。

やりがいを感じる時は、人の人生の大切な節目に立ち会えることです。よくお客様から「卒業式のために購入しました」「成人式で着たくてオーダーしました」など男女問わずお声がけいただくことが多く、世の中にたくさんの服が存在する中で人生の大切な瞬間の1着に選んでもらえるなんて、こんなに幸甚なことはないです。

私自身は別にデザインをする上でどうしてもウィメンズ・メンズにこだわってきたというわけではなく、「ジェンダーレスファッション」というのもいつの間にか周りの方に言っていただけるようになっていただけです。意図してそのカテゴリの様式にこだわっていたというわけでもなく、ただただそれを着た人間が格好良く見える服を創りたくて、一心不乱にものづくりをしてきました。

その人自身に、本来内在する強さや知性、内側に秘めていたある種の狂気的な美意識を外側に発散できるトリガーとして、服は強力な力を与えてくれることがあります。

女性でも男性でも、もちろんそれ以外のあらゆる性自認の方も年齢も国籍も問わず、個人個人の方がまだ見ぬクリエティビティと美意識への渇望、そしてまだ見ぬ新しい自分を見たいという欲求に対して服で何かしら応えられたら本望です。

人間には言葉があるように、デザイナーには服があるので、デザイナーとしてその言語で応えていけたらなと思っています。

お気に入りの香りと共に頭を整理するバスタイム

忙しい日々だと思いますが、普段はどんなお風呂タイムを過ごしていますか?

平日は帰ってくる時間が遅くなりがちなので、シャワーだけでできるだけコンパクトに済ませることが多いです。休日は、平日足りなかったお風呂タイムを補うように、1時間くらいゆっくりと湯船に浸かるようにしています。

お風呂でのルーティーンや愛用アイテムはありますか?

手軽に気分を変えられるアイテムとして、香りのついたものにはこだわっています。例えばシャンプーやトリートメント、ボディソープなどはちょっと良いものを少しずつ買って、日毎の気分に合わせて使い分けています。他にも、湯船にアロマオイルを落として入ることもあります。

特に好きなのはゆずやシトロンなどの柑橘系の香りです。香水なども柑橘系のものを選ぶことが多いのですが、リフレッシュしたいときにぴったりだなと思います。それから、創作の中で疲れが溜まって少し気持ちを落ち着けたいときには、ウッディな香りのものを選ぶこともあります。

一般的な賃貸のお風呂ではとくに、カスタマイズできる部分が少ないですよね。そんななかで少しでも自分らしいお風呂空間を作っていこうと思うと、手をつけやすいのが香りかなとも思います。それにお風呂って湿度が高くて香りが広がりやすいので、1つお気に入りの香りアイテムを取り入れるだけでも結構気分が変わります。

これまでのお風呂体験で印象に残っているものはありますか?

幼少期に毎年行っていた韓国でのお風呂体験が印象に残っています。韓国にはよもぎ蒸しや「チムジルバン」というサウナなどを含む複合的な温浴施設がたくさんあるんですよ。今でこそ日本でもサウナなどが流行っていますが、それよりももっと大衆的な場所というイメージです。最近、ストレスを溜め込まないようにセルフケアする人は増えていると思いますが、今思えば昔からそういった文化に触れていたんだなと不思議な気持ちになります。

それから、旅先での非日常なお風呂体験も好きです。とくに思い出に残っているのは、ニューヨークで泊まった「The Plaza」のバスルーム。老舗のホテルなのですが、猫足のバスタブがあって、大理石のタイル張りで、ラグジュアリーなお風呂でした。客室のリビングから扉などの仕切りがなく、シームレスに脱衣所や洗面台まで続いていて、今思うとまさに「bath side living」(※1)を体現した空間でした。

ホテルのバスルームは、なかなか自宅ではできないようなクリエイティビティに溢れた空間になっていることが多くて楽しいですよね。ホテルのアメニティを真似して、自宅のお風呂に取り入れることもあります。

※1:bath side living:お風呂がもたらす「心の調和、脳の休息、身体のケア」の重要性を再認識し、その前後の時間をより有意義にするための、BAINCOUTUREによる新たなライフスタイルの提案

進さんにとって、お風呂タイムはどんな時間ですか?

頭の中を整理する時間です。仕事をしている時は常に「これしなきゃ」「あれもしなきゃ」と動き回っているのですが、お風呂に入ると自ずとできることが限られます。じっくりと考えを巡らして頭をリセットできるのがバスタイムの良いところだなと思います。

今思い返すと、母も昔からよくお風呂やサウナに行っていたなと思います。日々仕事で忙しい中、考えをリセットしたい時や重要な意思決定をする際に、サウナに籠って一人になれる時間を創っていたそうです。今の私にとっても、毎日の忙しさを乗りこなすために、大事な時間です。

さいごに

前半では進さんがファッションデザイナーとして活躍するまでの道のりや、お風呂習慣について伺いました。後半の記事では、進さんの理想のお風呂についてお聞きしながら、アイデアを具体的なイメージにします。ぜひ、お楽しみに。

つづく

Text :Natsu Shirotori

Photo:Ibuki Yamaguchi

Release:2025.06.03

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