【前編】五感を研ぎ澄まし、「気づき」をもたらす松葉屋茶寮とお風呂の共通点| グラッシーズ代表・芝幸太郎 BAINCOUTUREと考える理想のバスルーム vol.09
BAINCOUTUREでは、お客さまそれぞれのライフスタイルにあったオーダーメイドのお風呂空間を提供しています。この連載は、そんなBAINCOUTUREの制作チームによって、さまざまな業界の最先端にいる方々の理想のお風呂をつくってみようという企画です。
今回ご登場いただくのは、株式会社グラッシーズ代表の芝幸太郎さん。南青山・骨董通りに「松葉屋茶寮・方舟GALLERY」を運営し、日本文化の価値を発信されています。前半では、日本文化や季節感をテーマにした空間設計への想いや、芝さんご自身の日常のお風呂体験について、南青山にある松葉屋茶寮でお話を伺いました。
来た者が自然と「気づく」日本文化の良さを醸し出す空間
芝さん 事業にしたいと思ったのは5年くらい前からですね。以前から日本文化がすごく好きだったのですが、しばらく海外で暮らしていたこともあり、どちらかというと消費者、買い手として作家さんに貢献できたらと思っていました。
でも、コロナ禍で日本に戻ってきて色々な地方に行ってみると、「価値がある」と言われている文化や産業がなくなりかけているという話ばかり聞くようになってしまって。このまま放っておいたらなくなってしまう、どう繋いでいけばいいんだろうと考えるようになりました。そこで、自社の事業にも日本文化を取り入れて、ただ買うだけではなく、マーケットを作る側にもなっていこうと決めました。
世界中を回って、海外の素敵な作品や建築物を目にしてきましたが、心躍るのは日本の美術品や建築物ということがすごく多かったんです。なぜかと問われると難しいのですが、もしかしたら子ども時代から何気なく触れてきたものからの影響もあるかもしれません。
私の祖父は宮大工だったんですよ。ちょうど今年、田舎に帰った時にお寺のご住職と話していたら、そのお寺も私の祖父が建てたというのを聞いて。今思えば、実は幼い頃から日本文化が近いところにあったんだなと思いました。
「気づき」のある空間にすることです。我々が押し付けるというよりは、お客様が自然と気付けるように、体に染み込むように、文化を体験できる空間にしたいと思っています。
たとえば、光であったり、香りであったり、静けさの中にある気配やものの揺らぎなど、そういったものがたくさん重なり合って、現代人の忘れていたような感覚を、ふと取り戻すきっかけを作れたらいいなと。
盆栽やお茶、お菓子はもちろん、音楽や香りなど多様なアプローチを取られていると思うのですが、それぞれ現代において日本文化を伝えるものとして機能するようにするために、どのようにデザインされていますか?どのアプローチにおいても、私たちが常に意識しているのは「不易流行」という考え方です。いつまでも変わらないこと=「不易」と、時代に応じて変化すること=「流行」が合わさった言葉です。変わらないものもあるけれど、「古き良き」ばかりにこだわっていたら、やはり取り残されていってしまう。今の時点で楽しまれていないものであれば、近い将来、絶対になくなってしまう。だから、未来に繋いでいくためにはその時代ごとに合わせた楽しみ方や価値の付け方が必要です。
たとえば盆栽も、私が子どもの頃は、おじいちゃんが家の庭で並べている渋いものといったイメージだったと思います。けれど、展示の仕方や置く場所、飾る雰囲気で、洋風なスペースにも意外と合う。私たちがSNSなどでそういった提案をすることで、改めて「盆栽ってかっこいいよね」という気づきの変化が起きる。そんな変化を起こしていくことが大事だと思っています。
茶室 緑閑庵にてもちろん人柄も大事ですが、我々が1番気にするところは素材や技術とか本質的なところですね。無駄なことはなるべく省いて、本当にシンプルにものづくりや表現というものに注目されている方に心を打たれるというか、共感できるところがあります。
例えば、TRADMAN'S BONSAI の小島鉄平くんとの出会いがそうでした。出会った時はまだTRADMAN'S BONSAIは2人でやっていました。そこからSNSなどで、スタイリッシュに自分たちの盆栽の世界を切り取って発信していたら、いつの間にか彼の元には職人になりたいという若者が30人近くも集まっていたんです。これも、まずは彼らが良い技術・表現を持っていたからこそです。
彼ら以外にも、担い手不足や継承問題、経済的な面で職人さんになることを諦めてしまったり、課題はまだまだ多いはずなので、そういう方々が生きていくためのマーケットを作るお手伝いがしたいなと思っています。
1日2回のお風呂タイムは自分に向き合うための時間
私は毎日、朝と夜の必ず2回お風呂に入ります。もう物心ついた時からずっとそうですね。
朝は自分のスイッチを入れるために入っているのですが、シャワーで済ますことがほとんどです。自宅のお風呂は床が石のような素材なのですが、滝行のつもりでシャワーの水と石がぶつかる音に耳を澄ましているとだんだんと1日を始める準備ができていきます。
夜は、夏はシャワーで済ましてしまうこともありますが、冬は必ず湯船に浸かっています。自分と向き合って1日のことを振り返ったり、明日どうしようとか、考えることが多いです。
1日2回が習慣化しているのは、かなりお風呂好きですね……!お風呂に対する特別な想いの原点はどこにあるのでしょうか?私の実家では、私が小学校6年生まで薪風呂だったんです。だから私の中でもお風呂って、「火を起こすところから始まって、ちょうどいい湯加減にするまでが大変」という体験込みで覚えているものなんです。その時からお風呂が好きだったので、毎日お湯を沸かすのも楽しかったです。

今だと自動でお湯を張ってくれたり、蛇口をひねればお湯が出るので便利になりました。ただ、私は小学生の頃からお風呂は時間や手間がかかるものという刷り込みがあるので、自動化されて浮いた分の時間を、お風呂の楽しみ方を広げるために使おうと思って。
無心で湯を沸かすために火加減を調整していた小学生の頃のような時間を作りたいなと思い、別の方法でお風呂タイムを充実させるようにしています。
具体的に、今、お風呂タイムを充実させるためによくやっていることはありますか?よくやるのは、神社などでお賽銭をするともらえる清めた塩を使ってスクラブすることです。塩そのものの効果もあるのかもしれませんが、邪気を払うというか、なんだかメンタル的に安定する気がするんです。「これでもう、今日も大丈夫」という感じで。
あと、Maison de Baincoutureの和ろうそく も使っています。ろうそくをつけている時は何も考えないで、無になってリラックスできます。

特に印象的だったのは、先輩の別荘に設置されていたお風呂です。富士山の溶岩を使ったお風呂で、溶岩の隙間から泡がぶくぶく上がってくるんですよ。目の前が河口湖で、向こうに富士山があるのを眺めながら入れる最高のお風呂でした。
他にもいっぱいあります。でも、基本的に記憶に残っているお風呂は全部日本のお風呂なんですよね。お湯もいいし、銭湯や温泉の文化もあって、日本はお風呂の国だなと思います。海外の方でも「日本に何しに行くの?」と聞くと「お風呂に入りに行くんだよ」という方もこれからもっと増えていくと思います。
芝さんにとって、お風呂はどんな存在ですか?最初にお話しした松葉屋茶寮・方舟GALLERYで大切にしていることと同じですが、お風呂も気づきをくれる場所だと思います。
お風呂時間って自宅なら特に1人になる時間だし、自分の感情とか記憶をたどる時間になるじゃないですか。自分と向き合える時なので、いろいろな気づきのヒントになるような空間としてすごく大事な場所だと思います。

さいごに
前編では、日本文化の体験価値創造に取り組む芝さんの事業哲学、五感を通じた「気づき」の体験や朝と夜で異なる役割を持つお風呂習慣についてうかがいました。後半の記事では、芝さんの理想のお風呂についてお聞きしながら、アイデアを具体的なイメージにします。ぜひ、お楽しみに。
つづく
Text :Natsu Shirotori
Photo:Ryo Kawano
Release:2025.09.10


